第4回 雇用制度、多様化へ – 企業のための「障害者雇用促進法」読本

企業のための「障害者雇用促進法」読本 ~その誕生から「2010年以後」の改正ポイントまで~

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第4回 雇用制度、多様化へ

第4回: 畠山 千蔭 (ATARIMAEプロジェクト障害者雇用アドバイザー)

――昭和51年に障害者雇用が努力目標から義務になり、昭和62年には対象が身体障害者から障害者全般に拡大され、障害者雇用促進法の原型ができました。このとき企業はどう受け止めたのでしょうか。

 戸惑いはあったと思います。「厳しいことになったな」と受け止めた企業も少なくなかったでしょう。とはいえ、障害者雇用をサポートする様々な制度もこのとき整っていきます。雇用率や納付金で企業の社会的責任を促す一方、障害者が企業で働くためには、育てて送り出す仕組みがなければならない、その上で初めて雇用に繋がるのだという発想から「職業リハビリテーション」が推進されました。もう1つ、企業の障害者雇用を大きく進めたのが特例子会社制度です。昭和52年から試行実施され、昭和62年の改正で法文化されました。

――特例子会社を設立すれば、雇用する障害者数を親会社と合算して雇用率に反映できるという制度ですね。

 雇用率という数字の問題だけでなく、特例子会社制度は企業とそこで働く障害者双方の事情を現実に即して考えた制度でしょう。とくに知的障害者の雇用拡大には貢献したと考えます。
 企業が障害者を職場に配置する場合、分散配置と集中配置という2つの考え方があります。たとえば知的障害者を3人雇用する企業が、それぞれの仕事のために3つの部署にバラバラに配属したとします。するとそれぞれの障害者の人事管理・業務管理をする人間が各部署に1名、つまりマンツーマンで必要になります。一方、集中配置なら1つの部署に担当してもらう仕事を集中し、10人の障害者を集め担当者を2人配属しても、5人対1人で済み、効率はまったく違います。
 もう1つ効率についていえば、平成14年に設けられた企業グループでの雇用率制度の適用があります。当時多くの企業は分社化を進めていました。たとえばIT企業ではSEは1つの事業所に集めたほうがより高度に専門化した仕事ができる。しかし事業所単位で障害者雇用の人数が決まると、高度に専門的な仕事をする職場での障害者の職域は限られ、結果として雇用する人数も制限されてしまう。そこで、親会社の合算だけではなく、特例子会社がある場合には、一定の要件を充たせばグループでの雇用率の合算を認めるという制度もできました。

――特例という言葉の意味は雇用率合算の「特例」だったのですね。

 この特例という言葉が「特別」といった誤解を与え、「障害者は特別だからと隔離するのか」といった批判もありました。しかし、集団で作業ができることがとくに知的障害者の職域拡大に即していたこと、資源・設備を集中することでさまざまな障害への対応が容易になったこと、また障害者雇用に関するノウハウが蓄積できることなどのメリットによって、あらゆる障害者の雇用拡大につながったことは間違いないと思います。
 実際、法定化から20年余、特例子会社は270社以上に増え、1万3000万人の障害者がそこで働いています。

――この後の改正で大きなポイントは何でしょう。

 大きな課題として残っていたのが、精神障害者への対応です。障害者雇用の対象に精神障害者を加えることが適切か否かという議論は長年続いてきました。平成18年の改正で精神障害者も実雇用率に算入できるようになり、企業と働きたい障害者双方の意識が大きく変わりました。長時間働くことが難しい精神障害の人に合わせて、短時間からスタートできる「ステップアップ雇用制度」もできました。
 雇用促進法は常に改正され続けていますが、その方向をひとことでいえば現実に即した「多様化」といえるでしょう。除外率の廃止に向けた見直し、障害者就業・生活支援センターとジョブコーチ制度、在宅就業者支援、短時間労働者の雇用義務算入など、それぞれ雇用する側・される側の立場から多くの議論を重ね、誕生したものです。
 かつてはバラバラだった福祉と雇用の分野がようやく本音で話し合える段階に移行してきました。まだまだ試行錯誤は続くでしょうが、障害者を送り出す人、つなぐ人、そして雇用する企業の連携をさらに強化する方向で進んでいくことは間違いないと思います。

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