ページの先頭です。

3つのスキップメニューです。
このページの本文へ
メインメニューへ
ホームへ

映画の中の障害者 福祉の道を歩んできた大学長の映画レビュー

第7回:衝撃的だが、押しつけがましさも重苦しさもない

この10年近く、「リアル」という漫画が読みつがれているのをご存知だろうか。あの大ヒット作品「スラムダンク」を描いた井上雄彦が、車椅子バスケットボールに素材を求めて描いた作品である。実にすばらしいのだが、週刊誌への連載は2か月に1回だし、したがって単行本はたった一度の毎年秋の刊行を待たなければならない。それを待つ間、すでに出た号を何度も何度も読み返しているがそれでも飽きることがない。

「スラムダンク」は、世界中で翻訳出版され累計1億部に上るという。その作者が描いただけに「リアル」もさすがにすごい。いい年をしたオヤジがいつも泣かされる。若者たちの痛ましいほどの青春の彷徨に胸を打たれる。それでも、登場する若者たちが何かを見つけ出すだろうことを信じさせてくれる物語の展開が心地よい。

ウイニングパス:
日本デジタルコミュニケーションズ

車椅子バスケットボールの起源は第二次大戦で負傷し車椅子生活を余儀なくされた軍人たちが、1946年頃に全米退役軍人病院で始めたことにあるという。その後、米英を中心に急速に広がり今ではすっかり市民権を得るどころか、世界の75ケ国が国際車椅子バスケットボール連盟に加盟しているという程に普及した。我が国でも、毎年、北九州市で「北九州チャンピオンズカップ」という国際大会が開催されているようだ。2003年には、その北九州市をスポンサーとする「ウイニングパス」という映画がつくられた。今をときめく松山ケンイチと堀北真希が主演しており、今日でも各地で上映会が開かれているようだ。「リアル」とは違う仕上がりだが、爽やかな後味の残る映画だった。

マダーボール:
エイベックス・トラックス

ところで、「マダーボール」(2005年、アメリカ)という映画がある。車椅子バスケではなく車椅子ラグビーに取材したドキュメンタリーである。映画を見るまで、車椅子ラグビーというスポーツがあることさえ知らず、全く偶然に出くわしたのだが、衝撃的な映画とその映像だった。車椅子ラグビーのルールは通常のラグビーのそれのように複雑なものではなく、選手がボールを敵側のタッチラインにあるゴールゾーンに運ぶだけというシンプルなものだ。それ故に激しい。ゴールしようとする選手に対し車椅子ごとガツンガツンとタックルするのだから、車いすは倒され、選手は床にたたきつけられる。まさにマダー(殺人)ボールである。ローマ時代の戦車かと見まがうほどに頑丈に改造された車椅子はさながら凶器である。

この映画の主人公は、かつて不敗を誇るアメリカ代表チームのエースだったが、年齢のために戦力外通告を受けた後に、カナダのナショナルチームの監督として自分を追い出したアメリカチームにリベンジすることを誓う。そして、その一方で敵役となったアメリカチームの青年たちの人生と戦いの軌跡も紹介される。そろって個性豊かな若者たちである。交通事故やケンカの後遺症のために、あるいは先天性の病気によって車椅子での生活を送ることになった彼らだが、誰もが漫画の「リアル」の登場人物たちのように熱くて濃いのだ。彼らはカナダチームの監督になったかつてのチームメートを「裏切り者」と呼ぶ。そして、絶対に奴を潰すと気勢を上げる。そんなくだりもドキュメンタリー映画だから当然なのだがリアルである。

アップテンポのBGM効果に煽られたのか、画面に眼が釘付けになりながら、「障害者になったからマダーボールに出会えたんだ」と語る選手にこのスポーツの魅力を説得されてしまう。試合中のすさまじい激突を見ると車椅子が「凶器」に見えてくるほどだから、衝撃的な映画ではあるのだが、押しつけがましさも重苦しさもない。というより、登場人物たちが車椅子に乗る「障害者」であることなどとっくに忘れてしまう興奮がある。その高揚感は全編を貫いており、アメリカチームとカナダチームが激突する世界選手権のシーンで最高潮に達した。

そして、映画はエンディングに向かい、闘い終えたアメリカのナショナルチームの選手たちが復員軍人の病院でデモンストレーションを行うシーンとなる。イラクで傷ついた兵士たちが車椅子の上から明るい表情でそれを見ているのだが・・・。映画の制作時点では、アメリカのナショナルチームの選手たちには、こうした傷痍軍人はいないようだが、そのうち、こうした元兵士の選手たちが増えてくることを暗示するためのシーンなのだろうか。

朝鮮、ベトナム、第一次湾岸、そして、9・11を経てアフガニスタン、イラクと第2次大戦以後の60年余りも絶えることなく戦争を続けてきたアメリカである。イラク戦争だけでもアメリカ軍の戦死者は4000人を超え、負傷者はおそらくその10倍に達するであろう。そのうちの何人が車椅子を手放せなくなるのだろうか。ひるがえってイラクの側を見れば、いわゆる一般市民を含みさらに10倍はおろか100倍もの死者や負傷者がいることだろう。

戦争は常に大量の障害者をつくりだしてきた。リハビリテーション医学の進歩も、こうした傷ついた兵士の治療や社会復帰プログラムとして発展してきたいきさつがある。車椅子バスケットボールもマダーボールもその進化形である。マダーボールの選手の一人は、「車椅子生活になったからこそ、このスポーツに出会えて幸せだ」と語った。

しかし、車椅子バスケットボールの起源が傷痍軍人たちのレクリエーションにあるからといって、軍の病院で両足を失った兵士に「大丈夫だよ。君らにはもっとスリリングなマダーボールがあるから」といえるだろうか。悲しいパラドックスが見えてくるラストだった。