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2010年7月アーカイブ

  

 

pukapan.jpgカフェ&ベーカリー「ぷかぷか」に、ひと際、声の大きい男性のメンバーさんがいる。

私が、彼に初めて会ったのは、昨年秋、中山駅近くにあるハーモニーみどりの調理室で開催されていたパン教室でのことだった。

 

「いきものがかり!」「幸田来未!」「aiko!」...。

調理室のなかをうろうろしながら、彼は、歌手の名前を次から次にあげていた。

 

たぶん,年末に放送されるNHK紅白歌合戦に出場する歌手をあげていたのだと思う。そのほか遊園地かテーマパークの名前など、パンづくりとは、まったく関係がない単語を連呼していた。誰かに話しかけるというよりも、自分で自分に話しかけているようにみえた。

 

そんな彼に、最初は、どのように接したらいいのか分からなかった。

怖さや不安はなく、見ているだけで元気を分けてもらえるような気持ちのほうが大きかったが、パンづくりの練習をあまり邪魔してはいけないという思いもあり、とりあえず、ビデオカメラのレンズ越しに様子を見ることにした。

 

その日のパン教室では、カレーパンをはじめ、数種類のパンを作った。

他の参加者に交じって、彼も、パン生地にカレーの餡を包む作業を促された。

しかし、周囲の人から、生地を広げて餡がはみださないように包む行程を細かく説明されても、それを受け止めているようには見えなかった。

 

作業の行程を見せながら「一緒にやろう」と促す人もいたが、彼自身に「作業を覚えよう」という気持ちや姿勢があるのかどうかも、分からなかった。

結局、彼の手のなかにあった生地は,餡がはみだして、上手く閉じることができない状態になっていた。

 

そんな彼が、今、「ぷかぷか」で仕事をしている。

担当は、パンを近隣の大学や区役所などに持っていって販売する「外販」の仕事だ。

 

7月初旬に「ぷかぷか」に行ったとき、彼がちょうどお店のほうへ歩いてきた。

厨房にいたスタッフに、外販に持っていく道具の所在を尋ねた。

 

パンを挟むトングや、商品の名前を書いたカード、商品を入れる袋などをまとめた「外販セット」は、すでに、お店の一角に用意されていた。その傍らに寄ってきて、じっと眺めている。外販に行くことを張り切っているようだ。

 

「ぷかぷかでは、どんな仕事をしていますか?」

話しかけると、答えがすぐに返ってきた。

「外販」

 

「今日は、どこへ外販に行くんですか?」

「東洋英和」

「お仕事は大変ですか?」

「たいへんじゃない」

「楽しいですか?」

「はい!」

即答だった。

 

外販に出かけた先で、彼が、大きな声を活かして、「いらっしゃいませ?!」「おいしーパンは、いかがですかぁ?」と呼び込みをしている姿が頭に浮かんだ。

 

お店がオープンした日、彼は入口の前に立って、「いらっしゃいませ!」と大声で呼び込みをしていた。道行く人の注目を集めて、お店の前に行列ができたほどだったからだ。

 

「ぷかぷか」のお店は団地のなかにあるため、オープンからしばらくして、呼び込みの大声にはクレームがあったと聞いている。現在は、お店の周辺で、彼の呼び込みの声を聞くことはない。しかし、外販で出かけた先では、彼のよく通る声が活躍する機会があるだろうと考えていた。

 

そこで、「外販のどんなところが楽しいですか?」と尋ねてみた。

彼の答えは、「袋に入れるところ」。

 

呼び込みの仕事が好きなのかと思っていたけれど、それは、私の思いこみ。

彼自身は、パンを袋に入れるところが楽しいと感じていたことを、初めて知らされた。

 

パンを袋に入れる作業は、パンが売れることと連動しているから、楽しいのかな?

袋に入れているとき、「ありがとう」とか「このパン、美味しかったよ」と言ってもらえることがうれしいのかなぁ...。

 

「アイドルは、スーパースター」。

そんなやりとりをした後、彼は、「アイドルは、スーパースター」というフレーズを連呼しはじめた。

 

私やスタッフの話にきちんと応えてくれるとき、彼の持っているリズムは、周囲の人のリズムと上手く合っている。

 

しかし、「アイドルはスーパースター」などと繰り返し連呼しているとき、彼は独特のリズムで、その場を過ごしている。

彼のリズムに慣れてしまうとたいして気にならないし、時々、元気を分けてもらうときもあるが、初めての人は驚くかもしれない。仕事の場面では求められていない、不要なリズムと位置づけられることもありそうだ。地域の人からのクレームにつながるときは、不協和音となっているのかもしれない。

 

「どんな仕事をしていますか?」という質問に、「外販」と答えた彼。

しかし、現在はまだ、「この仕事を任せられる」というレベルで、仕事ができているわけでない。

 

彼の独特のリズムが、「ぷかぷか」というお店や、お客さん、地域の人たちのなかに上手く溶け込み、一緒にハーモニーを奏でていくにはどんなことが必要なのだろう。

 

 

 

 私は、カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」に来ているメンバーさんの誰が、どういう障害を持っているのか、詳しくは知らない。それぞれのメンバーさんが働く様子を見ていて、「このメンバーさんは、この仕事はできる。これはできない」という程度で、なんとなく捉えている。

 

私は医療者でも教育者でもないので、障害を定義するような知識を備えて、「この人は、○○という障害を持っているから、▽▽の行動をとる」などと考える必要はないし、そういう考え方は、たぶん、あまり好きではない。

 

 ほかの友達や知人に接するときと同じように、「この人は面白い人」とか、「感情がはっきり出る人」だとか、「尊敬できる部分がある」とか、そういう感覚で接するほうが自然な気がするからだ。

 

ただ、発作やパニックを起こしてしまう可能性がある人については、万が一そのような場面に遭遇した時にちゃんとサポートができるよう、少しは知識を持っていたほうがよいとも感じている。

 

このブログでも、「障害」「障害者」という言葉を使ってしまうことが多いのだが、そもそも「障害」って何だろう?。「障害者」って誰だろう?。

 

考えていくうち、分からなくなることがある。

 

今回は、「ぷかぷか」の話から思いきり脱線するが、7月3日に東京都内で開催された「成人ディスレクシアの就労支援ワークショップ2」に参加させていただき、そこから「障害」について考えたことを書いてみたい。

 

 「ディスレクシア」(Dyslexia)とは、知的には問題がないが、読み書きに困難がある障害のことをいう。?音、?記号、?意味、の3つを結び付けることが上手くいかないことから、読み書きの困難が生じる。

 

聞いたこと(音)が文字(記号)に結び付かなかったり、文字(記号)が意味に結び付かなかったりする。文書を読んだり、書いたりしたときに、読み飛ばしが多かったり、音読した内容の意味を理解するのにとても時間がかかったりするそうだ。

 

 一方で、「ディスレクシア」の人は、空間認知や創造性に優れているといわれており、建築家や作家、俳優、運動選手や起業家として活躍している人もいる。

 

 今回のワークショップでは、NPO法人EDGE(エッジ)の会長・藤堂栄子さんから、ディスレクシアについての説明を聞き、その後、6人のディスレクシアの方から、それぞれの仕事の内容や、職場の環境などについてお話を聞くことができた。

 

 職場での困難として共通してあげられたのが、「電話の対応」だ。

 電話の相手から告げられた「どの会社の」「誰から」「職場の誰に」などの情報を記憶できない。記憶から抜けたり、メモをする際に間違って書くようなことが起こる。このため、職場の同僚や上司に、電話の相手や内容を伝えることができないという問題が起きてしまう。電話を他の電話に転送する操作の手順を、なかなか覚えられないという人もいた。

 

 会議や打ち合わせなどで、誰がどんな意見を発言したかを記録したり、会議の要約を「議事録」としてまとめなければならない作業も困難。

会議を録音して、その録音を起こして対応することもあるそうだが、何倍もの時間がかかってしまう。

 

このほか、スケジュールの管理をすることが難しかったり、受注の伝票を書くことができないという困難もある。業務のさまざまな場面で読み書きが必要になると、そこで躓いてしまう。

 

 そのような困難があることは、見た目からは、まったく分からない。

 

このため、「ディスレクシア」についてよく知らない同僚や上司からは、「つまらないところでミスばかりする人」「報告や連絡がきちんとできない人」とみられてしまうかもしれない。

「もっと、きちんとできるはずだ」と過度な期待をされたり、ミスについて「言い訳はするな」と言われることもありそうだ。

問題なくできるように見える人が、些細なミスを重ねたり、業務を滞らせたりすると、期待値が高い分、よけいに不満や怒りを招いてしまうようなことが想像できる。

 

 NPO法人EDGEの藤堂さんは、ディスレクシアの人について、

「勉強ができないわけではなく、勉強をするのに工夫が必要な人」と説明した。

 

 仕事の職種を選んだり、業務の内容や方法に工夫があれば、力を発揮できる人材が少なくないということだと思う。

 

たとえば、「ディスレクシア」の人と一緒に働くとき、電話の応対や議事録作成などは他の同僚が担い、「ディスレクシア」の人には、強みとしている空間認知や創造性を発揮できる仕事を担ってもらう。業績が上がれば、その職場は、優秀な人材が集まったチームとして高く評価される。

 

そうなったとき、職場の人々にとって、「ディスレクシア」は大きな問題ではないにちがいない。

 

私が、「障害」って、何だろう?、「障害者」って、何だろう?と考えるのは、「健常者」と「障害者」の境目や、線引きについて疑問を持つときだ。

 

「ディスレクシア」の人は、仕事をするうえで工夫は必要だけれども、職場の同僚や上司の理解があり、高いパフォーマンスを発揮できる環境であれば、「障害者」ではなくなるのかもしれない。

 

「障害」「障害者」を「害」にしてしまうのは、結局、誰なのか?。

困難を抱えている人の才能や能力を十分に発揮できるようなサポートをしない人々や、社会のほうかもしれない。

 

 

食パン2.jpg

 

 「いろいろあったんですけど、ここへきて少し落ち着こうとしている感じ。まだまだですけどね。ぷかぷかを核にして、みんなが1つになれるかどうかだという気がしています」。

 

「ぷかぷか」でスタッフとして働いている横田恵子さんに、オープンから2カ月について聞くと、こんな答えが返ってきた。

 

横田さんは娘さんも「ぷかぷか」のメンバーとして働いている。

横田さん親子は、代表の高崎さんが月1回開催していたパン教室に参加されており、お店ができる前から引き続き、「ぷかぷか」に深く関わっている方だ。

 

 横田さんによると、お店をオープンしてから、分かったことがいくつかある。

 

「ぷかぷかのメンバーさんは、パン教室の時から参加されていて、この方が来られるということは分かっていたんですが、実際に働くことになるとメンバーさんのハンディの幅が思っていた以上にありました」

「この仕事を、いつまでにしましょうとお話すると、最初からお話した以上にできる方と何度同じことをお話しても未達成の方といて、その幅が、想像していた以上にありました」。

 

障害を持っているメンバーのなかには、スタッフが1対1でサポートすることが必要な人がいる。一方で、任された仕事を、一人でどんどんこなしていける人もいる。

 

就労を支えるスタッフは、それぞれのメンバーにあわせたサポートを求められることになるが、「ぷかぷか」のスタッフは、正規職員が3人、非常勤が5人という限られた人数だ。

また、障害のある人に接した経験がこれまでなかったスタッフや、パンの製造にかかりきりになるスタッフもいる。

 

お店のオープン以降、さまざまな場面でメンバーさんの多様さ、その幅が浮き彫りになってきたということだと思う。

 

1人ひとりのメンバーさんが、「ぷかぷか」のなかでどのような仕事ができるのか。

仕事ができるように、どのようなサポートが必要なのか。

多様なメンバーさんのサポートをどうしていくのか。

そうした課題に、「ぷかぷか」のスタッフは、手さぐりで取り組んでいるといえるだろう。

 

この短期間に、「ぷかぷか」を去ることになったスタッフがいる。

また、新しくスタッフに加わった人もいる。

こうした変化について、私は、断片的に耳にするだけだったが、混沌とした雰囲気を感じていた。

 

お店が軌道に乗ることは大事だと思ったが、それよりも、「ぷかぷか」に夢を抱いて入ったスタッフさんたちが、心身ともに疲弊して体調を崩したりすることがないようにという思いのほうが強かった。

 

「もちろん大変なこともありますけど、そうではない部分ももちろんあります。大ざっぱな方だなという印象を持っていたメンバーさんが、クッキーを作るときにはものすごく丁寧に作ったり。掃除も最初は四角いところを丸く拭いているような方が、1回1回指摘していくとどんどんできていくようなこともあります」。

 

久しぶりにお店の様子を見て、また、横田さんのお話を聞いて、少しほっとした。

 

そして、改めて、「ぷかぷか」という場があること、そのものに、とても大きな意味があると感じている。これから起きるさまざまな出来事や経験を通じて、メンバー、スタッフ、そして私自身も、学びあえることがたくさんある気がするからだ。

 

横田さんは言う。

 

「私が、高崎さんに賛同してぷかぷかで一緒に働こうと思ったのは、ハンディがある人も地域の人との交流があり、少し緊張感がある働き方ができるようにしたいと思ったからです」

 

「ぷかぷかは、"ハンディのある人が働いているお店"ということではなく、きちんとお客さんに対応できるお店にしたいです。ぷかぷかで働いていた人が、将来、一般就労したときに、『あのぷかぷかで働いていたメンバーさんが働きにきてくれたのね!』と迎えられるように育てあげていくのが理想です」。

 

「ぷかぷか」を1つの核にして、こんな思いを共有できる一人でありたい。

また、同じような思いを抱いる人たちを「ぷかぷか」につなげていきたいと考えている。

 

プロフィール

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  • 由香里
  • 出版社勤務の会社員ですが、障害者に関連するテーマで取材し、市民メディアOurPlanetTVのWebサイトなどで発信しています。障害者の就労について関心があり、働く場が広がっていくような情報発信をしていきたいと考えています。
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