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2010年3月アーカイブ

 

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高崎明さんの著書「街かどのパフォーマンス」(太郎次郎社)のなかに、次のような記載がある。

「ぼくにもはっきりした展望があったわけではなく、ほんまにどうなっちゃうんだろうという感じだったのだが、それを不安に思うよりも、むしろ、だからおもしろいと思っていた。予定されたことが予定どおりいっても、それはあたりまえのことであっておもしろくもなんともない。どうなっちゃうかわからないという未知の部分があるからこそ、人は未来に胸ときめかすのだろうし、それへ向けてしんけんになって生きることができるのだとぼくは思う。」

 これは、障害のある子どもたちとワークショップを通じて1つのお芝居をつくる取り組みについて書かれたものだ。台本に従ってつくるのではなく、みんなで創作していくお芝居に絡めて、高崎さんの価値観が示されている。
 
 お芝居をつくることと、パン屋をつくることは、まったく異なる分野にある。
しかし、「ぷかぷか」を追いかけるなかで、私が見聞きした高崎さんの言動を振り返ると、面白さを追求する姿勢に変わりはないと思う。

3月27日(土)は、工事中の「ぷかぷか」の店舗で、壁を塗るイベントが催された。
お店の入り口右手の壁には、四角い枠が用意されており、そこにみんなで漆喰(しっくい)を塗る作業だ。
参加者はビニールの手袋をはめて、漆喰を野球のボールのように取る。そして、それを壁に向けて放り投げる。漆喰は、べちゃっと壁に付いて小さな山になったり、重力に引かれて少し下に流れたものもあった。壁を塗るというより、どろんこ遊びの延長に近く、みんなでわいわいと投げつけた。漆喰が乾いて固まり、最終的にどんな壁が完成するのかが楽しみだ。

ほんの1週間ほど前
、「ぷかぷか」には、新たな展開があった。

「ぷかぷか」の店舗は、スタッフがゆっくり休憩する場所を確保できない。パンをつくり、販売するスペースでいっぱいになってしまう。
高崎さんは「ぷかぷか」のお店の近くに部屋を借りて、そこをスタッフの休憩室にするつもりでいたのだが、予定していた空き部屋は「住居」以外の目的で借りることができない決まりがあることが分かった。

「住居」として借りて使うことができないわけではないだろうが、複数の人が出入りすることもあり、近隣の住人とのトラブルが出るとお店の不評にもつながる可能性がある。このため、お店近くの空き部屋を借りることは諦めて、別に賃貸物件を探していた。

そんななか、「ぷかぷか」から徒歩で行ける場所で営業していたレストランが、今月で閉店することが分かった。高崎さんがレストランのオーナーと話しをしたところ、閉店して中にある設備を解体するにもそれなりにお金が掛かるので、次にその場所を借りるなら、それを格安で譲ってくれるという話が持ち上がった。

 一般的な部屋では、休憩以外の目的に使うことは難しい。
「ぷかぷか」のカフェのスペースは4席しかないが、レストランのような設備が付いた場であれば、そこにお客さんを呼ぶこともできる。高崎さんは、閉店するレストランの場所を借りることに決めた。

 こうした急展開を受けて、私の心には「大丈夫かなぁ・・・」という心配が浮かんでくる。
パン屋として、どの程度のパンをつくることができ、どの程度のパンが売れるのかは、始まってみないと分からない。パン屋と平行してレストランも稼動することに伴う、スタッフの配置や作業工程、資金繰りなどが気になってくる。

 「ぷかぷか」は、どうなっていくのだろう?
「分からない」という未知の部分に胸ときめかし、希望にできるだろうか。そんなことを考えてみる。

  320日土曜日。3連休の初日は、晴天に恵まれた。強い風が吹いているが気温は高く、汗ばむくらいの陽気だ。

 

 高崎さんの運転する車に乗せていただき、中山地区センター(ハーモニーみどり)から霧が丘団地へ向かう。工事が進められている「ぷかぷか」を見に行くためだ。

 

 霧が丘団地には、これまでも何度か足を運んでいる。

高崎さんたちは、パン教室を開催すると出来あがったパンを霧が丘団地の商店街の皆さんに配りに出かけていた。

 

これから「ぷかぷか」を開店するにあたり、地域の人たちとのつながりをつくるためだ。それに同行したついでに、昨秋ごろに一度、「ぷかぷか」が入る予定の空き店舗を見せてもらったことがある。しかし、その時にはまだコンクリートの壁しかなく、四角い空間が広がっているだけだった。

 

「ぷかぷか」は、今、まさに工事中だ。

隣のお店に来たお客さんも「ここに何のお店ができるのだろう?」と興味を示しながら歩いていく。

 

店舗の奥のスペースには業務用のオーブンが入り、冷蔵庫や流し台やコンロなども搬入された。四角い空間は仕切られて、お客さんが入るスペースとスタッフが入る厨房のスペースの境目が、はっきり分かるようになっている。

 

内装の細かい作業はこれからだが、「木の仕事」のスタッフが描いた「ぷかぷか」のイメージ画と、目の前にある工事中の空間とを頭の中で重ねると、おぼろげながら完成形が浮かんでくる。温かみのあるお店の雰囲気は実現できそうな気がしてくる。

 

 高崎さんは、27日土曜日に、みんなで「ぷかぷか」のお店の壁を塗るイベントを開く予定だ。

 

 みんなで壁塗りの作業をすることで、「ぷかぷか」は「みんなのお店」になる。参加者それぞれにとっても「自分がつくったお店」になる。お店に対する愛着は強くなるだろうし、これからの仕事に対する意欲も増すかもしれない。楽しいイベントになりそうだ。

 

 4月に入ると、みんなの出勤が始まる。4月下旬のオープンまで、パン作りや接客などを練習する予定だ。

 

 「ぷかぷか」のパンやサービスをつくり、お店の中身をつくっていく作業がもうすぐ始まろうとしている。

 

「働くこと」について、考えてみた。
私が思い浮かべるのは、まず、「働くこと=お金を稼ぐ」こと。
もちろん、働くことは生きがいになったり、他者との新しい出会いをもたらしたり、さまざまな価値を生み出す。しかし、一般的に「働くこと=お金を稼ぐ」ことだと思う。

障害者にとっては、どうだろう?
これも多くの人と同様に、やはり「働く=お金を稼ぐ」だと思う。
労働なら、それにきちんと対価が支払われるべきだと考えている。

しかし、養護学校を卒業した人が通い、部品の組立など下請け的な仕事をする「授産施設」などでは、月給1万円程度だという話をしばしば耳にする。そのたびに、なんとなく腑に落ちない気持ちを抱えていた。

「障害がある→生産性が低い→工賃も安い」という構図で、仕方がないということになっているのだろうか?
本当に月1万円程度の労働しかできないのだろうか?
障害者がそれぞれの能力を活かして働ける場がないのだろうか?。そんな思いが沸いていた。

そんな中、日本障害者リハビリテーション協会のホームページで、「福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会?国際的動向を踏まえた福祉と雇用の積極的融合へ?」という報告書を見つけた。


これに目を通して、障害者の就労を取り巻く環境や制度が少し整理できた気がする。

この報告書によると、一般の企業などへの就労が困難な障害者は「福祉的就労」に従事している。「福祉的就労」の従事者は約20万人程度とされている。

また、佐藤宏氏(元職業能力開発総合大学校)と古田清美氏(全国社会福祉協議会障害福祉部)は、「福祉的就労」を、次の3類型に分類している。

? 障害者自立支援法による障害福祉サービス事業における就労(就労移行支援事業、就労継続支援A型事業、同B型事業での就労)

? 障害者自立支援法成立以前の旧障害者福祉各法に基づく就労施設における就労(入所・通所授産施設、福祉工場)

? 小規模作業所・共同作業所における就労(親の会や障害者団体などが主体としてつくった共同作業所など)

? のうち、就労移行支援事業は、本人の適正にあった職場探しや就労後の職場定着のために必要な訓練・指導をおこなうものだ(期間の限度あり:24カ月以内)。

就労継続支援A型事業は、就労移行支援事業では一般の就労に結びつかなかった人を対象に就労の機会を提供し、就労に向けた知識・能力の向上を図るもの。この事業所で雇用契約に基づく就労の機会を提供して、知識や能力が高まった場合には一般の就労への移行を目指す。


A型は「雇用型」ともいわれ、事業経営者と利用者(障害者)は原則として雇用契約を結ぶ。雇用契約を結ぶので、基本的には最低賃金以上の支払いがある。

就労継続支援B型事業は、一般の就労に結びつかなかった人に、就労や生産の場を提供するものだが、事業者とは雇用契約を結ばない。「非雇用型」といわれている。

出縄貴史氏(研進)によると、障害者が事業者と雇用契約を結び、「労働者」として働く場合(福祉工場や就労継続支援A型事業での就労)と、「訓練生」として働く場合(就労継続支援B型事業、入所・通所授産施設、小規模通所授産施設など)の間には、平均的な月給に格差ができている。


後者の事業所では、施設の位置づけのためか、賃金の支払いや所得保障に対する注力が弱くなるようだ。

 高崎明さんたちがつくるカフェ&ベーカリー「ぷかぷか」は、障害者自立支援法の「就労継続支援A型事業所」だ。

 高崎さんは、他のお店に負けない商品とサービスを「ぷかぷか」で提供したいと考えている。


「天然酵母を使うこと」
「アトピーのある人でも安心して食べられる材料を使うこと」
「冷凍生地を購入して焼くのではなく生地から作ること」
などのこだわりは、「商品で勝負したい」という思いの現われだろう。

接客についても、「ぷかぷか」のスタッフは4月下旬のオープン前に、接客のプロから研修を受ける予定だ。

「障害者がつくったのだから、この程度の味や出来栄えの商品でも仕方がない」
「障害者のお店だから、他のお店ほどきちんとした接客ができなくても仕方がない」
そんな雰囲気が漂うお店にはしたくないのだろう。

 高崎さんにとっても、「ぷかぷか」は養護学校を退職した後の人生の基盤であり、「稼ぐ」ことは重要な課題のはずだ。だからこそ、利用者と雇用契約を結んで賃金を支払う「就労継続支援A型事業」を選択されたのだと思う。

「このお店のパンは美味しいから」「このお店に来ると、元気や笑顔をもらえるから」といわれるお店にしたい。
商品やお店の価値を認めてもらい、きちんとお金も稼ぎ、賃金も支払いたい・・・。

高崎さんが「ぷかぷか」を通して達成したい目標は、盛りだくさんになっている。

参考文献:「図解 障害者自立支援法早分かりガイド」(日本実業出版社)
「福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会?国際的動向を踏まえた福祉と雇用の積極的融合へ?」(日本障害者リハビリテーション協会、DINFより)

プロフィール

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  • 由香里
  • 出版社勤務の会社員ですが、障害者に関連するテーマで取材し、市民メディアOurPlanetTVのWebサイトなどで発信しています。障害者の就労について関心があり、働く場が広がっていくような情報発信をしていきたいと考えています。
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