

■値段と時間に正確な外販部長
「ぷかぷか」の声の大きいメンバーさんは(ここでは外販部長さんと呼びます)、数字に強い。「ぷかぷか」は、近隣の大学や、区役所、養護学校にパンをもっていって売る「外販」をしているが、お客さんが購入しようとしているパンの合計金額を、「○○円」「○○円」とすぐに計算してしまうらしい。計算機を使って計算するよりも、暗算が早くて正確なため、店長の高崎さんからも頼りにされている。
そのうちに外販に同行して、そのすごさを見せていただこうと思っている。
外販部長さんは、時間にも厳しい。
10月下旬のある日、お昼にでかけた外販先の大学で、パンがあまり売れずに残ってしまった。この日は寒かったため、学生があまりいなかったようだ。外販にでかけていたスタッフの比留間さんは、いったんお店に戻ってきたが、「パンを売り切ってしまおう」と夕方に、別の場所へ外販にいくことにした。
しかし、外販部長さんは、15時30分で仕事を終える予定だった。
「15時30分になったら帰る?」と外販部長さん。
「ちょっと、残業して。4時半くらいまで。外販のヒーローでしょ?」と店長の高崎さん。
外販部長さん:「ヒーロー?。あの、テニスクラブで外販しないと、帰れない?何時まで?」
店長の高崎さん:「9時まで」
外販部長さん:「やだ」
高崎さん:「ゾンビがでるまでには帰れるから」
外販部長さん:「やだ。3時に帰る」
高崎さん:「スーパースターだろ?」
外販部長さん:「これから、ちょっと残業?1時間か2時間、ゆっくり来る?」
高崎さん:「はいはい。そうそう...」
そんなやりとりが、しばらく繰り返される。
「テニスコートにいってから、帰ろう」
外販部長さんは、自分自身を納得させるように言っている。
「外販何時まで?」「テニスコートはどこ?」
外販部長さんの質問は、その後も延々と続いた。
そして、比留間さんに促されて、ようやく外販に出かけていった。
「売れた!」
もっていったパンをすべて売りきって、外販部長さんは戻ってきた。
そして、疾風のように帰っていった。
「すごいところは、嫌だって言わないところですよ。疲れをみせない。時間はすごいシビアですけど。今日みたいにね。何時に帰るって決まっていたら、それをなかなか曲げられない」。
スタッフの比留間さんは、外販部長さんについてこう話す。
さらにすごいところは、前の日に残業した時間を、次の日に早く帰ったり、遅く来たりして自分できちんと調整していることだそうだ。
■気がつく人
11月半ば、メンバーの荒井さんは、この日も熱心に洗いものをしていた。
洗いものがひと段落して、手が空いていたため、パンの袋詰めを頼まれてやっていたのだが、再び、流し台に洗いものがあるのを見つけた途端、ほおっておかない。
すぐに流し台に近づいていき、洗い始めた。
そんな荒井さんが、厨房の奥にある流し台から、パンを販売しているほうへ出てきた。
「あれ?どうしたのかな?」
と思って見ていた私の前をすぅ?と通りすぎ、お店の隅に置かれていたCDプレーヤーの再生ボタンを押す。そして、また、すぅ?と厨房のなかへ戻っていった。
「ぷかぷか」では、CDプレーヤーでクラシック音楽を流している。
プレーヤーはリピート機能がないようで、CD1枚の演奏が終わると音楽が止まってしまう。荒井さんは厨房のなかにいるのだが、音楽が流れていないことにすぐに気がつくようで表に出てきてCDを再生させていたのだ。そんな場面を2度ほど目撃した。
レストランのほうで仕事していたメンバーの横田さん(スタッフの横田恵子さんの娘さん)も、この日は、厨房にいた。パンを袋に入れる作業を丁寧にしていた。
横田さんは控えめだが、言葉遣いなどがとてもしっかりして、他のメンバーさんに優しい。6月ごろ、「仕事は楽しいばかりじゃないですよね」と話していた横田さんだが、仕事の楽しさを感じる場面があるといいなぁと思っている。

10月末をもって、厨房でパンづくりをしていた女性職員2人と、「Vol.22 お話できるといいのにね」で紹介した男性メンバーさんが、「ぷかぷか」を去ることになった。パンづくりの職人は、店長の高崎さんが求人を出したところ、新たに経験豊富な男性の職人さんが見つかった。「お話しないメンバーさん」は、保護者も交えて話しあいをしたなかで「ぷかぷか」とは別の場所で頑張ってみるということに決まったそうだ。
一方で、新たに3人のメンバーさんが加わり、今、少しずつ仕事を覚え始めている。
別れは、少し寂しく、残念だ。
しかし、他人がとやかく言うことではないし、それぞれの事情や考え方があり、選択だと思う。新しいメンバーさんのなかには、とても素敵な絵を描く人がいて、これからどのような活躍をされるのか楽しみになる。
「ぷかぷか」のお店の壁には、今、新製品の「うさぎパン」にちなんで、こどものお客さんたちに描いてもらったうさぎの絵が展示されている。
近隣に保育園があることもあり、「ぷかぷか」には小さな子どもを連れたお母さんがよくやってくる。国産小麦と天然酵母という安全・安心の材料を使っていることが、お母さんたちに評価されているのかもしれない。
店長の高崎明さんが手作りしている「ぷかぷか新聞」には、パンの素材のことや、メンバーさんのエピソードを載せているが、最近は、この新聞を読んでお店を知り、足を運んだという人も少なくないようだ。「ぷかぷか新聞」には、メンバーさんの描いた絵も挿絵として使われており、その絵がとても素敵で惹かれると思う。
新しい商品のなかで、ぜひ、一度お試ししてほしいのは「けらけらパン」(写真は調理例)。
丸いかたちのパンで、正面から見るといかにも「けらけら」と笑っているようにみえるのが特徴だ。笑顔の「口」の位置に切り込みを入れてバターを塗り、チーズやハムをはさむとますます笑っているように見えるから楽しい。幼いお子さんがいるご家庭では、材料に工夫をして、いろいろな顔をつくるのも楽しそうだ。
もうひとつ、最近の話題は、パン屋の「ぷかぷか」から歩いてすぐの場所に「ぷかぷかカフェ」がオープンしたことだ。
もともとは「ミモザの丘」というレストランがあったのだが、このレストランが閉店した後、「ぷかぷか」が借りていて、このたびカフェとしてスタートした。
カフェの営業は11時30分?14時30分までで、コーヒーなどが楽しめる。メニューには、けらけらパンのセットもあるが、パン屋のほうでも人気のパンなので数量限定とのこと。電話で確認してから出かけるのがお勧めだ。
カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」は、もうすぐオープンから半年を迎える。
この半年の間、いろいろなことが起こっている。
お店を覗きにいって、メンバーさんの様子を見て、嬉しくなることがあった。
一方で、さまざまなトラブルの話を聞き、「大丈夫かなぁ...」と心配になることもあった。
ただ、どんなに心配しても、私自身が「ぷかぷか」の仕事に携わっているわけではない。
せめて、このブログで「ぷかぷか」のことを書きつづけて、応援していこうと思っている。
今、「ぷかぷか」が力を入れている課題は、お店に来てパンを買ってくれるお客さんを増やすことだ。
店長の高崎明さんは、「ぷかぷか新聞」をつくり、店舗のある霧が丘団地をはじめ周辺のお地域に配っている。「ぷかぷか」のパンのことやメンバーさんとの出来事が書かれていて、パンと同様に、手作りの心がこもった新聞になっている。
9月の後半からずいぶん涼しくなり、これからはシチューやグラタンなどが美味しい季節。
「ぷかぷか」のパンは、温かいスープにもよく合う。
パンの美味しさが、たくさんのお客さんに届くことを願っている。
ああ、ようやく、スイッチが入った。
私が視線を注いでいた「ぷかぷか」の男性メンバーさんが、ようやく仕事を始めた。
彼は、厨房のなかで、材料の計量を担当している。
独特の間というか、動作を始めるタイミングのようなものを持っていて、スイッチが入るまで仕事を始めない。自分のスイッチが入るまで、とにかく、じいっと立っているのだ。
周りで、他のスタッフやメンバーがバタバタと忙しそうにしていても、彼は決して急がない。常に自分のペースのなかにある。
計量の仕事は、材料を秤の目盛やスプーンにあわせてキッチリやっているようにみえる。パンを一つずつ袋に入れる作業も、とても丁寧にやっているようだ。
そして、彼は、一言も話をしない。声を出せないのか、出さないのか、把握をしていないが、どうやら「出さない」らしい。
スタッフとも、メンバーとも、もちろんお客さんとも話をしない。
挨拶も、返事もない。声をかけても、一言も返ってこない。
ただ、自分に言われていることは理解できているようで、話が「わからない」というわけではないらしい。指示された仕事は、一応、こなしている。
「ぷかぷか」に足を運んだとき、私も、たわいもないことを話しかけてみる。
当然、言葉は何も返ってこない。
ただ、誰かに話しかけられたとき、彼の瞳の奥に返事があるようにみえることがある。
瞼が動いて、「そうです」とか「はい」とか言ったように感じるときもある。
あくまで、私の勝手な解釈にすぎないけれど...。
言葉ではない部分に注目し、受けとめる側が彼のささやかな反応を上手に受けとめられると会話が成り立つのかもしれない。
しかし、職場で一緒に働くとなると、なかなか難しいことが多そうだ。
「ぷかぷか」のなかでも、スタッフが、逐一、作業の指示をしなければ、彼は、そのままじいっと立っていることになるだろう。
彼自身が自覚を持って、自分から積極的に仕事をこなしていくということが、これから、どこまでできるようになるのかなぁ...と思う。
「ぷかぷか」での仕事は、楽しいのか。楽しくないのか。
とりあえず計量を任されているけれど、本当は、どんな仕事をしたいのか。
どんなことが得意なのか。趣味は何をしているのか。
いろいろなことがわかると、活躍の場面が増えるのかもしれない。
お話できるといいのにね。
「障害をもっていても、いきいきと働くことができる居場所がある」
カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」は、この夢を実現するためにつくられた。
しかし、日本全体をみると、「働きたい」という意欲はあるのに、働く場に出会えない障害者がたくさんいる。国が民間企業(56人以上規模)に求めている障害者雇用率(法定雇用率)は1.8%だが、2010年6月現在の実雇用率は1.63%。1.8%は決して大きな数字ではないが、これを達成できない企業が45.5%と、半数近くを占めている。
こういう数字をみると、メンバーさんと「ぷかぷか」の出会いはとても貴重なものに思えてくる。たくさんの課題を抱えているが、「ぷかぷか」という「場」が存在することに、なによりも大きな意味があると感じている。
一方で、「働く場」に出会えていない障害者は、どうしたらいいのだろう?
という問題は頭の片隅に残っていて、もやもやしていた。
8月7日(土)に新宿区の障害者福祉センターで開催された「障害児自立支援セミナー」に参加して、この問題を考えるための材料を少し得ることができた。
このセミナーでは、障害者が受給できる「障害年金」について、制度の仕組みや申請方法を社会保険労務士の松山純子さんが解説。
障害者雇用支援事業や障害者のためのビジネススクール・学習塾などを展開している株式会社D&Iの杉本大祐さんが、「障害者の雇用と教育」をテーマにお話した。
幅広いテーマが詰め込まれたセミナーだったが、2人のお話を聞きながら、私が考えたのは、障害者就労を広げていくには、「ホップ・ステップ・ジャンプが必要なのかもしれない」ということ。
?ホップは、働くための準備ができること
?ステップは、働く場と出会い、仕事を始められること
?ジャンプは、職場に定着し、成長やスキルアップできること
と考えた。
つまり
?ホップとして、就労の前にさまざまな準備をしておくと「働く場」に出会える確率が高まり、職場に入ってからスムーズに仕事ができる気がする。
子どものころから、学習や教育のなかで将来の自立を応援するのは、「教育」分野の人の仕事になりそうだ。
?ステップとしては、障害者就労支援の取り組みが、まだまだ必要だと思う。
障害者が働く場と出会えるように応援すること、企業の経営者に障害者の人材(人財)を知ってもらう取り組みを広げたい。
?ジャンプでは、就労の継続が目標のひとつになるだろう。就職先が決まれば終わりではなく、仕事を続けられること、仕事のなかで成長していけるように応援することが大切だと思う。
そして、ホップ・ステップ・ジャンプの、どの段階でつまづいても、支援・助けが得られれば安心だ。 心身の不調などで仕事を休む必要があるときは、生活を支える年金が受給できるといい。
D&Iの杉本さんは、障害者の就労を進めるために、就労前の人材(人財)をより魅力的にする目的で「ビジネススクール」を開校したのだろう。学習塾は、人材(人財)の種に、早い段階から水を与えるものだといえる。
社会保険労務士の松山さんのお話では、障害年金の仕組みを知らないために申請できず、年金を受給していない人が少なくないという。申請には、医師の診断書が必要だが、障害年金の制度について理解がない医師もいるという。
年金を受給できれば生活が安定し、結果として心身の調子が安定する。それにより、就労を継続する可能性が高まるかもしれない。松山さんは、社会保険労務士の専門的なお仕事を通じて、障害者の支援をされている。
さて、
「ぷかぷか」応援隊の私は、ホップ・ステップ・ジャンプの取り組みについてさまざまな人を頼りながら、聞きかじっているところ。
まずは、このブログを通じて、私が得た情報を、障害者就労に興味・関心がある人と共有していきたい。
カフェ&ベーカリー「ぷかぷか」に、ひと際、声の大きい男性のメンバーさんがいる。
私が、彼に初めて会ったのは、昨年秋、中山駅近くにあるハーモニーみどりの調理室で開催されていたパン教室でのことだった。
「いきものがかり!」「幸田来未!」「aiko!」...。
調理室のなかをうろうろしながら、彼は、歌手の名前を次から次にあげていた。
たぶん,年末に放送されるNHK紅白歌合戦に出場する歌手をあげていたのだと思う。そのほか遊園地かテーマパークの名前など、パンづくりとは、まったく関係がない単語を連呼していた。誰かに話しかけるというよりも、自分で自分に話しかけているようにみえた。
そんな彼に、最初は、どのように接したらいいのか分からなかった。
怖さや不安はなく、見ているだけで元気を分けてもらえるような気持ちのほうが大きかったが、パンづくりの練習をあまり邪魔してはいけないという思いもあり、とりあえず、ビデオカメラのレンズ越しに様子を見ることにした。
その日のパン教室では、カレーパンをはじめ、数種類のパンを作った。
他の参加者に交じって、彼も、パン生地にカレーの餡を包む作業を促された。
しかし、周囲の人から、生地を広げて餡がはみださないように包む行程を細かく説明されても、それを受け止めているようには見えなかった。
作業の行程を見せながら「一緒にやろう」と促す人もいたが、彼自身に「作業を覚えよう」という気持ちや姿勢があるのかどうかも、分からなかった。
結局、彼の手のなかにあった生地は,餡がはみだして、上手く閉じることができない状態になっていた。
そんな彼が、今、「ぷかぷか」で仕事をしている。
担当は、パンを近隣の大学や区役所などに持っていって販売する「外販」の仕事だ。
7月初旬に「ぷかぷか」に行ったとき、彼がちょうどお店のほうへ歩いてきた。
厨房にいたスタッフに、外販に持っていく道具の所在を尋ねた。
パンを挟むトングや、商品の名前を書いたカード、商品を入れる袋などをまとめた「外販セット」は、すでに、お店の一角に用意されていた。その傍らに寄ってきて、じっと眺めている。外販に行くことを張り切っているようだ。
「ぷかぷかでは、どんな仕事をしていますか?」
話しかけると、答えがすぐに返ってきた。
「外販」
「今日は、どこへ外販に行くんですか?」
「東洋英和」
「お仕事は大変ですか?」
「たいへんじゃない」
「楽しいですか?」
「はい!」
即答だった。
外販に出かけた先で、彼が、大きな声を活かして、「いらっしゃいませ?!」「おいしーパンは、いかがですかぁ?」と呼び込みをしている姿が頭に浮かんだ。
お店がオープンした日、彼は入口の前に立って、「いらっしゃいませ!」と大声で呼び込みをしていた。道行く人の注目を集めて、お店の前に行列ができたほどだったからだ。
「ぷかぷか」のお店は団地のなかにあるため、オープンからしばらくして、呼び込みの大声にはクレームがあったと聞いている。現在は、お店の周辺で、彼の呼び込みの声を聞くことはない。しかし、外販で出かけた先では、彼のよく通る声が活躍する機会があるだろうと考えていた。
そこで、「外販のどんなところが楽しいですか?」と尋ねてみた。
彼の答えは、「袋に入れるところ」。
呼び込みの仕事が好きなのかと思っていたけれど、それは、私の思いこみ。
彼自身は、パンを袋に入れるところが楽しいと感じていたことを、初めて知らされた。
パンを袋に入れる作業は、パンが売れることと連動しているから、楽しいのかな?
袋に入れているとき、「ありがとう」とか「このパン、美味しかったよ」と言ってもらえることがうれしいのかなぁ...。
「アイドルは、スーパースター」。
そんなやりとりをした後、彼は、「アイドルは、スーパースター」というフレーズを連呼しはじめた。
私やスタッフの話にきちんと応えてくれるとき、彼の持っているリズムは、周囲の人のリズムと上手く合っている。
しかし、「アイドルはスーパースター」などと繰り返し連呼しているとき、彼は独特のリズムで、その場を過ごしている。
彼のリズムに慣れてしまうとたいして気にならないし、時々、元気を分けてもらうときもあるが、初めての人は驚くかもしれない。仕事の場面では求められていない、不要なリズムと位置づけられることもありそうだ。地域の人からのクレームにつながるときは、不協和音となっているのかもしれない。
「どんな仕事をしていますか?」という質問に、「外販」と答えた彼。
しかし、現在はまだ、「この仕事を任せられる」というレベルで、仕事ができているわけでない。
彼の独特のリズムが、「ぷかぷか」というお店や、お客さん、地域の人たちのなかに上手く溶け込み、一緒にハーモニーを奏でていくにはどんなことが必要なのだろう。







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